吾輩ハ猫デアル



実家に帰って物置を片づけていましたら泉鏡花の本が出てきました。春陽堂から出ている明治43年の版とありました。
泉鏡花の資料が無かったので国立国会図書館のライブラリーで調べると、国立国会図書館には写真データーとしてデジタル化して残しているだけで実物は無いそうです。

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[泉鏡花]

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[泉鏡花]

この本と合わせて夏目漱石の『吾輩は猫である』の明治44年の大倉版もあったが、こちらは痛みが激しいので読むのは難しそうです。

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[吾輩ハ猫デアル]

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[吾輩ハ猫デアル]

この版は、清泉女子大図書館の貴重品コレクションでも扱っている極めて稀な本でした。日常的に読む本では無くて文学史上の資料として博物館とに保管する本でした。

縦15センチ、横9センチの三五版で、厚さは3センチである。紙装こば折れ、角背、天金。橋本五葉による装幀で全一巻である。752頁には橋本五葉による猫がビールを飲んでいる絵がある。
言うまでもなく、この小説は猫がビールを飲んで酔っ払って甕に落ちて死ぬという結末で幕を閉じるのである。
「縮刷本」の初版は、明治四十四年六月廿七日印刷、明治四十四年七月二日發行、正価金一圓三十錢である。現在の貨幣価値に換算すると三千五百円となる。見かけは小さいが、意外に高価な本であったことがわかる。(清泉女子大貴重品コレクション)


初版という定義が難しいが、『吾輩は猫である』は明治38年10月に上篇(第1~第5章)、明治39年11月に中篇(第6~第9章)、明治40年5月に下篇(第10~第11章)と菊判三分冊になっていたところを、大倉書店が三五版の一冊にまとめたのが明治44年です。
表装は糊張りですが、これは当時の表装では標準的な手法です。

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[吾輩ハ猫デアル]

吾輩は猫である。名前はまだ無い。
 どこで生れたか頓と見當(けんたう)がつかぬ。何でも薄暗(うすくら)いじめ/\した所でニヤー/\泣いて居た事丈は記憶して居る。吾輩はこゝで始めて人間といふものを見た。然(しか)もあとで聞くとそれは書生といふ人間中で一番獰惡(ねいあく)な種族(しゆぞく)であつたさうだ。此書生といふのは時々我々を捕(つかま)へて煮(に)て食ふといふ話である。然し其當時は何といふ考もなかつたから別段恐(おそろ)しいとも思はなかつた。『吾輩ハ猫デアル』



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[吾輩ハ猫デアル]

ここで、面白いのは大正7年以降の「吾輩は猫である」では、獰悪(どうあく)とルビが振ってあるのですが、原本では獰惡(ねいあく)となっています。ねいあくなら「佞悪」と書くべきところですが、それに獰悪の文字を填めたところに夏目漱石のトリックが感じ取れます。
つまり「獰惡(ねいあく)」と書くことで、バンカラを装い乱暴者に見えるが、その実は心のねじ曲がったひねくれ者ということかもしれません。

森鴎外の高瀬舟には「當時遠島を申し渡された罪人は、決して盜をするために、人を殺し火を放つたと云ふやうな、獰惡(だうあく)な人物が多數を占めてゐたわけではない。」という使い方がありますので、「獰悪(どうあく)」というのは極悪非道の輩のイメージがあったのでしょう。

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[吾輩ハ猫デアル]
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その他の蔵書では、昭和10年版のマルクス=エンゲルス著作全集(改造社)やルソー著作集も全集でそろっていたので、特に方向性があるわけでもなさそうです。
これらの蔵書の持ち主は、陸軍少佐として第一線で戦ってきたのだが、厭戦気分から共産主義に傾倒したわけでもないし、アカの研究のために思想研究をしていた訳でもありません。

当時の陸海軍の将校の教養としてマルクスくらいは読んで知っているというものだったようです。TVや映画では「鬼畜米英」で英語などは敵性語であって、すべてを排斥していたとありますが、そのような反米派が主流であったというのはかなり偏った情報であり、むしろ作られた虚像であるということです。
大日本帝国の将校たるものは欧米にも知己はあり、英語くらい使えるのは普通ですから欧米の書物があったところで不思議ではありません。


JIMMY

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No title

こんな本があるんなんて、すごい御家庭ですな。

それはそうと。

大日本帝国の将校の教養レベルというのはめちゃくちゃ高かったんですよね。
あの山本五十六も、ハーバードに行っていたし。

武官として外国駐在していたような人たちは、英語、ドイツ語とも堪能だったようですね。

うん?

JIMMYさんの実家の蔵書→蔵書の持ち主は陸軍少佐→JIMMYさんの御祖父が陸軍少佐、ということですか。

No title

本が好きなので、感動に震えてしまいました。
こんなすごい蔵書がご実家にあるなんてー。

泉鏡花、去年初めてkindleで読みました。幻想的で
色鮮やかな作品が多いですよね。

私も、ご祖父さんが陸軍少佐でおられたのかなと思いました。
このような本をお持ちだったなんて、どんな方だったのだろうと
妄想が膨らみます~。

Toshi@タイ さんコメントありがとうございます

> 大日本帝国の将校の教養レベルというのはめちゃくちゃ高かったんですよね。
「永遠の0」でも語られていますが、ただの戦いたがりの乱暴者では絶対に負けるということを士官は知っていたようです。
映画ではすぐに体罰をする兵隊が出てきますが、士官学校を出たような人は体罰などしないそうですから。

> JIMMYさんの実家の蔵書→蔵書の持ち主は陸軍少佐→JIMMYさんの御祖父が陸軍少佐、ということですか。
祖父は陸軍少佐ではないのですが、いわゆる旧家の名士というやつでゼロ戦を持ってたそうです。軍に貸与したので兵役は免除だそうです。

ぷんぷく さんコメントありがとうございます

> 泉鏡花、去年初めてkindleで読みました。
泉鏡花はすばらしいですよ。「天守物語」は演劇やアニメでもありますが、原作は妖怪ものというよりもむしろ彩とりどりの織物を見ているような色彩の世界に迷います。

> 私も、ご祖父さんが陸軍少佐でおられたのかなと思いました。
残念ながら祖父は陸軍少佐ではないのですよ。もうすこし面白くて「金田一 耕助」ものに出てきそうな旧家なので祖父はいきなり兵役免除のうえ、バンクーバーに渡っていたそうです。
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